第102章 アウトクラトール

「メデア! 目を覚まして!」

(またあの夢……?)

ゆっくりと重い瞼を押し上げる。視界に飛び込んできたのは、金髪の少女の顔だった。見覚えがあるような、ないような……年齢は十五歳くらいだろうか。隣に座り込み、しきりにこちらの肩を揺さぶっている。

「もう、メデアったら! 爆弾が落ちても起きないつもり!?」

遠くで、空気を震わせるようなどす黒い爆発音が轟いた。

「……ちょっと言い過ぎたかも。ねえ、一体どうしたのよ? 五分も揺すってるのに」

背中に触れる大理石の床は、ひどく冷たかった。崩れかけたアクロポリスの神殿。横たわったまま、思考の焦点が定まらない。

「ねえ、どうしたの? 生気がないわよ。……って、まさか……」

少女は心配そうに手を伸ばし、こちらを引き起こそうとする。

「メデア……? もしかして、私のこと……」

「……あなたは……誰……?」

少女は弾かれたように後ずさりし、崩れた柱に背中を打ち付けた。

「えっ? メデア、本気で言ってるの? カナだよ、カナ! しっかりして! 始めるわよ、やりかけの続きを。ぼーっとしている時間なんてないわ」

「……まだ……夢……なの……? ……あの懐かしい夢なら……もう覚めたくない……」

(この世界が夢か現実か分からないけれど、メデアは相当強く頭を打ったようね)

脳髄に直接響くカナのシニカルな声。

驚きで跳ね起きる。カナはすぐそばにいて、何度目を瞬かせても幻のように消え去ることはなかった。

(喉が渇いたわ……)

そう思考した瞬間、目の前に水の入ったコップが唐突に出現した。反射的に身を引き、コップは石の床に落ちて甲高い音を立てて砕け散った。

再び、外で爆発音が轟く。崩れた壁の向こうを軍用ヘリコプターが旋回し、耳をつんざくような機銃掃射の音が鳴り響いている。

「大人しくさせておきたかったのだけれど、メデアが眠っている間は創造主の力、使えなくてさ。いい加減起きなさいよ! 地球の改造、始めるわよ!」

「地球の改造って……どういう意味?」

硝煙の臭いを残して飛び去るヘリをぼんやりと見つめながら、問い返す。

「もちろん、この世界を良くしたい気持ちはあるわ。でも、ただの人間に何が……できるっていうの?」

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無機質な古代の石造りの冷気と、差し込む暖かな光。その空間の只中に、一つの影が降り立った。

メデアの言葉に、私の堪忍袋の緒が切れた。ここで動かなければ、すべてが無駄になる。陰からメデアを見守り続けてきた私――まるで守護霊のように――が、ついに表舞台に立つ時が来たのだ。

「メデア。初めまして」

背後から、静かに声をかける。振り返った彼女の目に、私の姿はどう映っているのだろうか。差し出した手には、彼女を本来の運命へと引き戻すための、逃れられないインビテーションの意を込めた。

「カナ、久しぶりね。……思い出したかしら? 私は魅魔よ」

今の私は、長生きしすぎて自分が悪霊だったことさえ忘れかけている。だが、メデアはまるで洗脳されているかのようだった。記憶を失い、別な誰かの人生を己のものとしてしまっている。ならば、真実を語らなければならない。

「メデアが幻想郷に来たあの日から、ずっと見守っていたのよ」

私はゆっくりと、語りかけるように続けた。ここから、私とメデアの本当の物語が始まる。魅魔ものがたり。

「あの日……すべての始まりを覚えているかしら? 波が緩やかに岩に打ち寄せていた、あの日を……」

***

私の話を一言も聞き漏らすまいと、メデアは耳を傾けた。にわかには信じがたい話だったろうが、自ら記憶の底をなぞるうちに、創造主としての真の姿を完全に理解したようだ。もはや私の説明は必要なかった。

彼岸と閻魔大審議会を壊滅させたことへの迷いも、完全に消え去っていた。判決を受けたあの日から今日まで、迷わず突き進んできたのだ。「平和的」な解決を選んでいれば、どれだけの血が流されたことか。たとえ地球の人口が半減しようとも、死んだ者たちにとって精神の軛からの解放は、それだけの価値があった。今はまだ全員に人間の体を与えられないが、アンドロメダ銀河を参考にカナと共に新しい社会を築くまでは、動物の体が仮の器となるだろう。

その第一歩として、地球上のすべての国家を統合し、唯一絶対の支配者――アウトクラトール――として君臨する新体制を築く。メデアはその頂点に立つ。

「アウトクラトール」

という言葉は、単なる独裁者を意味するのではない。ギリシャ語の「アウトル(自らの意志)」と「クラトス(精神力、権力、不屈の精神)」を組み合わせた言葉で、すべての頂点に立つのが生ける神なのだから、もはや無用な争いは意味を持たなくなる。

あとは、理想を実現するだけだ。

崩れ落ちた建物を一つ一つ修復しようとした時、メデアは気づいた。人間の思考には限界がある。同時に一つのことしか考えられず、一つの場所にしか存在できない。これでは、地球の復興に時間がかかりすぎる。キクリが菊界を一夜で再生できたのは、同時に無数の場所に存在できたからだ。メデアも、その方法を理解した。

そして、新生地球の人々に神として顕現するため、同じことを実行に移した。

彼岸暦七五一八年九月三日正午。新たな時代の幕開けを告げるかのように、世界中のあらゆる場所に、まばゆい光に包まれたメデアの姿が現れた。が、光は人々の目を惹きつけるための演出に過ぎなかった。

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乳児が食事を散らかす食卓、コンクリートの瓦礫が積もる焦土、国際機関の厳粛な会議場、そして電子機器が並ぶ閉鎖的な空間。あらゆる生活と破壊の場に、同時に彼女は顕現した。

かつての栄華を極めたビザンツ帝国の女帝を思わせる、重厚で威厳に満ちた姿。圧倒的な権威が、異なる温度と騒音を持つすべての空間を冷徹な静寂で塗り潰していく。

善人も悪人も、ユダヤ教徒も仏教徒も、無神論者も狂信者も、あらゆる者が等しくその威容の前に立たされた。戦場で泥に塗れて銃を構える兵士は、敵のホログラム映像かと無駄弾を撃ち込み、信心深い者はただひれ伏す。いつものように子供の食べこぼしを拭き取っていた母親も、夕飯を終えてくつろいでいた父親も、それぞれの居場所でその姿を目撃した。インターネットの復旧を待ちわびていた若者は、薄暗い部屋のモニターに現れた姿を幻覚か妄想だと疑い、生き残った国家元首は物々しい警備に囲まれながらも呆然と虚空を見つめるしかない。眠りに落ちていた者は強引に目を覚まされ、酒に酔っていた者は一瞬で正気を取り戻し、道行く人々は地に縫い留められたように足を止めた。地球上のすべての人間が、この謎めいた存在と直接対面を果たしたのだ。

数秒の沈黙の後、彼女は一切の感情を交えることなく、一人一人の目を真っ直ぐに見据えた。

そして、それぞれの母国語で、一人一人に語りかけ、名前を呼んだ。

「初めまして。

メデアと申します。

私は神です」

***

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「ほら、やっぱりね。魅魔には無理だって言ったでしょう? 今日のあなたは、『大魔女』にはなれないわ」

差し出した手をそのままに、皮肉めいた笑みを返す。

「ええ、完敗よ、フレデリカ。月の杖はあなたのものね。でも、メデアがあそこまでやれたのは事実でしょう? 私はほんの少し、背中を押しただけだわ」

「あの子ったら、身の丈以上のことをしようとしたのね。いつかこうなるとは思っていたけれど……。まあ、仕方ないわ。くよくよしないで、魅魔。もう一度勝負しない?」

――第二巻終了――

[SYSTEM ALERT: 音響兵器デプロイ完了]

▼ 本章の絶望を1000%味わうための専用聴覚データ ▼

■ YouTube:『アウトクラトール -再構築- (Autocrator -The Reconstitution-)』