冷たい風が容赦なく岩肌を打ちつける。この日、雄大な岩々は特別な来訪を予感しているかのようだった。
聖なる山中、泥と藁の粗末な小屋で眠りに就いていた老隠者は、大水のとどろきのような、あるいは全能者の御声のような恐ろしい轟音に目を覚ました。粗い麻布をまとっただけの老人は、朽ちかけた閂を外し、裸足のまま外へ出て空を見上げる。北から暴風が吹き起こり、火が絶え間なくひらめき渡る大きな雲が迫ってくるではないか。老人の足は、地に根を生やしたかのように動かない。その五感は、まさに今訪れようとする圧倒的な啓示に囚われていた。
「おお、神よ……!」
力なく左手を下げた老人は、限界まで口を開き、天地を揺るがす絶叫を上げた。
空は真昼の太陽のように白く輝き、漆黒の雲が山頂を覆い尽くす。その火の中心には、琥珀のような輝きがあった。強烈な光と風を遮るように右手を顔の横へ掲げた老人の頭上を、恐るべき威光が覆い尽くす。雲の裂け目から現れたのは、磨き上げられた青銅の如く輝く、車輪の中の車輪のような幻なる御姿であった。緑柱石のように輝くその恐ろしく高い外枠には、周囲一面に無数の目が満ちている。
それらを支えるように、四つの顔と四枚の翼を持つ異形の生き物たちの姿があった。右に獅子、左に牛、そして鷲と人の顔を併せ持つ彼らは、稲妻の閃きのように素早く行き来し、その間を松明のような火が飛び交い、青白い稲妻が放たれて大地の岩肌を打ち据える。翼が羽ばたくたびに、軍衆のどよめきに似た轟音が響き渡り、小屋の屋根を吹き飛ばした。
老人は恐る恐る視線を、光輝の源へと向ける。生き物たちの頭上には、水晶のように輝く恐るべき大空の幻が広がっていた。その大空の上に、サファイアのような玉座の幻があり、そこには人の姿をした御方が高く座しておられる。腰のように見える所から上も下も、火のような、琥珀のような輝きにすっぽりと包まれ、まばゆいばかりの光が四方を取り囲んでいた。老隠者は主のあまりの威光に圧倒され、地にひれ伏したまま意識を失った。
***
「くぅっ、これは強い。こんな酒は初めてだ。」
絹のマントを羽織った若い男は、青みがかった液体を一口含み、すらりと伸びた杯を黒檀のテーブルに置いた。
「私も本物のアムブロジアは久しぶりだ。蔵の奥にしまっておいた秘蔵酒だよ。もしかしたら、ディオニューソスが醸造したものかもしれん。あいつはろくでもない神だったが、酒造りの腕だけは一流だったからな。」
向かいの巨大な椅子に腰掛けた男は、相手の視線に合うよう、わずかに身をかがめた。金とサファイアで装飾された、円錐を思わせる高い冠を正し、杯を一気に飲み干した。
「さて、アレックスくん。君を呼んだのは、インドでの勝利を祝うためと、もう一つ、別れの挨拶をするためだ。」
「別れ?どういう意味だ? 俺が何か気に障ることをしたなら、この命に誓って…… 」
「おいおい、アレックスくん、何を馬鹿なことを言うんだ。君はこれまでよくやってくれた! 時々、本当に人間なのか疑うほどだ。たった数年で世界の半分を征服するとは…さすがだな。」
「お世辞はいい。第一に、俺にはまだ征服すべき土地が山ほど残っている。それに…ヤハウェさんの助けなしじゃ、何十年もかかったはずだ。で、別れって一体何なんだ? 」
「ああ、アレックスくん。すべては決まっているんだ。彼岸で私の裁判の準備が着々と進んでいるらしい。もうすぐ召喚状が届く。奴らが集めた証拠の量から見て、中央庁に連行され、裁判にかけられるのは避けられないだろう。」
「忌々しい閻魔どもめ! なんとかできないのか? どこでそれを知ったんだ? 俺にできることがあれば何でもする! 」
「君はすでに十分に私を助けてくれたよ。時々、この…〝素晴らしい〟惑星で、君だけが信頼できる唯一の存在のように思えることもある。どうやら、神殿にスパイがいるらしい。それに、昔の敵の誰かが私の失脚を企んでいる。心当たりもあるんだが…閻魔どもに反訴を起こすために乗り込むわけにはいかないのは、君も分かっているだろう? 」
「またバアルの仕業か? 」
「おそらくな。だから、ここで、オリンポスで君と話がしたかったんだ。ここでは何百年経とうと、誰にも聞かれることはないからな。まず、閻魔どもはヒュダスペス河畔の戦いへの私の介入を知っていて、でっち上げの罪で、ミデヤン人の件を蒸し返そうとしているらしい。」
「だが、あの野蛮人どもは自業自得だ! 」
「それを閻魔どもに説明してみろってんだ。『神の栄光』の修理や燃料確保のために、工場の労働者に食料を与えなければならないことなど、奴らには理解できない。それに、あの原始的な連中は、私の民に加わって繁栄する代わりに…反乱を起こし、バアルを呼び出す始末だ! 私は裁判にかけられるどころか、不信心者を滅ぼした功績で賞賛されるべきなんだ! 」
「ああ、閻魔どもには独自の正義があるからな。他に何か罪状はあるのか? 」
「他にも、奴隷労働の利用、性犯罪、大量虐殺、民族間の対立扇動…枚挙にいとまがない。」
「それで、どうするつもりだ? 諦めるのか? 」
「まさか! ヤハウェがそう簡単に諦めると思うか! 地球が私の手から離れたら、すぐに抜け目のない創造主が現れて、自分のものにして私物化するだろう。そうすれば、私が何千年もかけて、あの忌々しいオリュンポス十二神とアース神族を滅ぼしてきた努力が、バアルのような奴の手に渡ってしまう! だから…最後に閻魔どもと中央庁とその他全員を出し抜いてやりたいんだ。アレックス、君にそれを手伝ってほしい! 君がこの世で最も望んでいるものは何だ? 」
「答えは知っているだろう、ヤハウェさん。俺は全世界の支配を望んでいる。まさか…? 」
「地球は君のものだ。私が正式に地球を所有している間に、非常に巧妙な贈与契約を作成した。閻魔どもは指をくわえて見ていることしかできないだろう。私は地球の権利を君、一人の人間に譲渡する。そして、君はそれを子孫に譲るんだ。そうすれば、誰もこの惑星に手を出せなくなる! 」
巨躯のヤハウェは小さなアタッシュケースを持ち上げ、タッチパネルに指を触れると、光を放つ薄型のタブレット端末をテーブルに置いた。
「サインしてくれ、アレクサンドロス大王。」
アレクサンドロスは何も言わず、素早く画面の契約内容に目を通すと、ためらうことなくディスプレイ上に指を走らせてサインした。
「なあ、ヤハウェさん。」
「なんだ?」
「この『神の栄光』も俺のものになるのか?」
「アレックス、図々しいにもほどがあるぞ!」