背後で渦巻く巨大な青い光が、凍てつくような冷気を洞窟の最奥へと運んでくる。足元に点々と続く赤い炎の微かな熱だけが、この空間で唯一の生命の痕跡のように揺らいでいた。氷の青と血の赤が交錯する神聖かつ禍々しい気配の中、人ならざる威圧感を放つ門番を見据え、静かに口を開く。
「知性の試練を選びます」
「理にかなった選択であるな、若き者よ」
抑揚の一切ない、機械的な音声が反響する。
(力の試練を選んでいたら、『勇敢な選択だ』とでも言われたのかしら)
「試練の前に、一つ問おう」
「何でしょうか」
「この門がどこへ繋がっているか、知っておるのか」
(そう言われてみれば、具体的にどこへ繋がっているのかしら? フレデリカは向こうで儀式ができると言っていたし、空間から強烈な魔力も感じるけれど……。ここで無知を悟られるのは得策ではないわね)
「存じております。ですが、シンギョク様のお考えも伺いたいものです」
赤く発光する不気味な瞳が、こちらの思考を暴こうとするかのように細められた。
「ここは幻夢界(むげんかい)への通路。夢と現実の狭間であり、あまたの世界を繋ぐ空間なり。我が権限により、そなたを二つの世界のいずれかへ案内することができる。その決意を見るに、目的はすでに定まっておるようだな?」
「ええ、もちろん。ですが、門番たるシンギョク様から直接お話を伺わないのは失礼にあたるかと存じます」
「規則とは厳しきもの。門の向こうに潜む危険を、試練の前に若きそなたへ知らしめねばならぬ。もし試練を受けずに退くというなら、なおさらのことである。一つは魔界、悪魔どもの住処だ。重苦しい空気が澱み、人の肉体と魂を貪り尽くすものどもが跋扈しておる。この選択は避けるべきだ。もう一つは地獄……。新しく、何もなく、ただ痛みと恐怖のみが支配する空間なり。永遠の悲しみを司る王国であり、あらゆる生命を根源から憎む者が巣食う。そなたの目的とする場所が旧地獄なら、それは間違いだ。ここはさとり様の地霊殿へは繋がっておらぬ。いずれにせよ、この選択も避けた方が賢明であろう」
(つまり、試練を諦めて引き返せというの……? 何年も夢見て、ようやくここまで辿り着いたというのに!)
静かな怒りを押し殺し、表情だけは優等生のような笑みを貼り付ける。
「試練を始めましょう。どのような場所であれ、挑戦してみせます」
「我に拒否する権利はない、若き者よ。それが規則である。そなたの試練は、謎かけだ。よく聞け」
「朝には知られず、
昼には待たれず、
夕べには恐れられ、
夜には誘われるもの。
これは何であろうか」
(……どこかで聞いたことがあるような。古代シュメールの謎かけに近かったかしら? 思い出せない。仮にこの謎が解けたとしても、一体どちらの世界へ進むべきなの……? どちらも死と隣り合わせのようだけれど、あの夢のためには、飛び込むしかないわね)