冷たい石の床の上で短く思考を巡らせた後、アンケート用紙にペンを走らせる。ペン先が紙を引っ掻くたび、己の存在そのものを査定されているような奇妙な緊張感が走った。
名前: メデア
性別: 女性
年齢: 17
出身地: ギリシャ
種族: 人間
宗旨または信仰: グノーシス主義的合理主義
滞在の目的: 助けを探す
お酒を飲みますか? いいえ
喫煙習慣はありますか? いいえ
違法薬物を使用したことはありますか? いいえ
配偶者以外の人と肉体関係を持ったことはありますか? いいえ
あなたの人生における最大の価値観は? 知識
(一部、嘘を混ぜるしかなかったわね。どれを偽ったか、正確に記憶しておかないと。設定の破綻は命取りになる。もし露見すれば、あの酔っ払いの幽霊より厄介な事態になりかねない)
書き終えた用紙を差し出すと、受付の少女は朱墨の印鑑を押し、通りかかった別の半透明の影へとそれを手渡した。
「人間? なんだか、人間っぽくない雰囲気ですね……。もしかして、妖怪が化けているとか?」
少女は、値踏みするようにこちらをじっと見つめてくる。
「ええ。私が何者かなんて、私自身が一番よく理解していますから」
探りを入れるような視線を冷淡に切り捨てた。
「わかりました、ただの確認ですので……」
少女は愛想の良い微笑みを浮かべて引き下がる。
「で、あなたは一体何者なの?」
「ポ、えっと、幽霊です! ただの死者の魂ですよ!」
「それで、ここに来た目的は……大いなる調和を理解するため、とか?」
あえて興味深そうな素振りを装って尋ねる。
「そ、その通りです!」
中央ホールを出てふと背後を振り返ると、少女の視線がまだこちらにねっとりと絡みついていた。心の奥底まで見透かそうとするような、ひどく冷めた眼差し。
(底の知れない子。でも、最近はあんなのばかりだから慣れたわ。あの子についても後で探りを入れてみれば、何か引き出せるかもしれない。それにしても、一体何が目的なのかしら。あの奇妙なアンケートといい、この神殿の狂気的な静けさといい……油断は禁物ね)
ひんやりとした石の階段を二階へと上がる。一階と変わらぬ簡素な造りで、むき出しの石壁に等間隔で置かれた蝋燭の炎が、頼りなく揺れているだけだった。薄暗い廊下を進むと、奥まった場所にある襖で仕切られた一室から、微かな話し声が漏れ聞こえてきた。
「この聖なる場所でさえ、心を鎮めることはできぬのか……」
石壁に重々しく木霊するのは、先ほどのコンガラの声だ。だが、応じるもう一人の声は明羅のものではなかった。
「単刀直入に本題に入りたいのですが、私の知る限りでは……」
どこかで聞き覚えのある、妙に自信に満ちた女性の声。
「待て。当然のことながら、そなたにも滞在者の申請書を書いてもらう。だが、そこには『どの道を経てこの地に辿り着いたか』という問いはない。我々はこの聖なる地へのあらゆる道を知る必要がある。ゆえに、真実を告げよ」
衣擦れの音と、畳を擦る微かな音が響いた。
(この声……まさか……)
「シンギョクをご存知かしら? 私は名誉の試練をクリアして、ここに来たんですの。正当な理由がありますわ」
その尊大な語尾で、確信は疑いようのないものへと変わる。
(間違いない。小兎姫だ……!)
無機質な石壁の冷気の中に、不釣り合いな畳の匂いが混じっている。隙間から漏れ聞こえるのは、乾いた陶器の盃が触れ合う硬質な音と、政治的な取引特有のヒリヒリとした空気だけだ。友好的な宴などではない、互いの腹を探り合うような息苦しい交渉の場がそこにあった。
「つまり、私たちの目的は共通していますの。正義のために、共同戦線を張りませんこと?」
「待て。『目的が共通』だと? ならば、まず我らの目的、そしてそなたの目的を言ってみせるがよい」
小兎姫は少しの間の後、淀みなく答えた。
「私の理解では、コンガラ様はこの世界に正しい道徳を植え付けようとしておられますわね。そして私の目的は、正義の実現と犯罪者の処罰よ」
「よかろう、続けよ」
「幻想郷の警察全体が、日々犯罪者の逮捕に尽力しておりますの。コンガラ様の宿敵である風見幽香もその標的の一人。しかし、コンガラ様の素晴らしい軍隊の力があれば、より迅速かつ確実に問題を解決できるのではないかしら」
「婦警、一つ言っておこう。我が軍は昨日、壊滅的な敗北を喫したのだ」
「まさにその通り! 軍の訓練が決定的に不足しているだけですわ!」
「何だと!?」
(小兎姫がコンガラに真っ向から意見するなんて……!)
石壁の影に身を潜め、息を殺して耳を澄ます。
「敗北の直接的な原因は、総司令官の能力不足にありますわ」
小兎姫の声には、一片の躊躇いもなかった。
「明羅が!? よくもそのような口が叩けたものだ!」
「言わせてもらいますわ。幻想郷警察の全面的な支援を提案いたします。その代わり、コンガラ様からは幻想郷と魔界への自由な通行権と、静かなる軍の部隊の提供をお願いしたいの」
「……考えよう」
コンガラの声に、微かな動揺が混じった。部屋が深い沈黙に包まれる。
(今なら、何か付け入る隙があるかもしれない。でも、どう動くべき? 小兎姫の正体を暴露する? いや、明羅に密告したところで私に何の利益もない。むしろ、小兎姫がコンガラの側近に収まれば、彼女を上手く誘導できるかもしれない。地獄から抜け出す手立てとか……。あの牢獄を破壊した件がバレていなければの話だけれど。明羅に取り入る? あの石頭では骨が折れそうね。コンガラを怒らせれば、太郎と同じ末路を辿るだけ。なら、答えは一つよ)